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End of the Game -禽獣層・鏡の中の自由な真実- 雨が降っていた。 押さえきれない悲しみを表すように、苛烈に。 けれど雨は重たい水滴で身体を濡らすだけで、更に気持ちを募らせ鈍らせる。 決して、その穢れを洗い流すような真似はしてくれない。 逃げる背中に追い打ちをかけるように雨は降っていた。 惨めな自分を責める雨は、細かく細かく、目を凝らさねばよく見えないほどの量だった。 当然、洞窟に雨が降る訳が無い。白妙に目が眩むほどの、攻撃術の雨だった。 雨垂れにしては大きすぎる炎の滴、霧雨にしては白く輝きすぎている光の粒。 過剰纖滅の雨は、防がれることなく、少年と抱えられた少女の死体を掠める。 決して自然の音ではない、けたたましい半鐘<サイレン>の音。時折、無数の視覚センサーが赤い光を覗かせる。 雨は優しくなどなかった。 雨は、侵入者を排除するためのプログラム――望むならば、大量の同胞を殺された憎しみに過ぎなかった。 先程まではいくら束になって数で襲おうとも雑魚でしかなかったが、今は違う。 戦意を喪失した、逃走しか能のない奴に躊躇する理由はない。高らかにサイレンを鳴らし、天上万歳、天上王万歳と人を殺す機械は行進するのみ。 幼い怪物の泣声が雨音に混じる。雲霞む軍列の中に、不規則な重量感ある足音が響く。 それだけで、彼の剣は怯懦に震えた。その両腕は、か細い亡骸を包むことしかできなかった。 雨は外側より鳴りて、彼の身を紅く濡らす。死ねと、死ぬべきだと。 雨は内側より鳴いて、彼の心を黒く塗らす。どうして、どうして生きているのと。 強い雨足で降り注ぐ音の中で、少年の弾むような息はかき消されてしまって聞こえてこない。凍えた吐息も、白くは色つかない。 ただ重さに平伏し、ただ跪いて息絶えろと、雨は背中を追い立てる。 やがて背を押していた雨は、向かい風が吹き、身体の表側を傷付けていく。 顔を上げると、天上の機械モンスターが大群割拠として、波のように広がっていた。 ひとりに向けるには幾ら何でも多すぎる量だ。絶望以上のものを与えようとしているのか。 前から後ろから、過去から未来から耳から頭から半鐘の音が交差する。 重なり合い、追随し、ぐわんぐわんと響き渡る不協和音は、もはやどこから聞こえるのかも分からない。 ただ、あの日の憎悪と悲痛が蘇るようで。脇に抱える少女の体は、半分なのにいやに重くて。 ああ、煩い。黙れ。何も聞こえないくらいに煩すぎる。 何も聞こえない無音に終ぞ耐えかね、少年は大口を開けて向かい風に牙を剥いた。 耳の周りを飛ぶ蠅を払う様に、握った時の剣を振るう。白い雨の中に、黒に近い暗すぎる蒼が光を放つ。 彼の感情を物語るかのように、蒼い光は音速を越えて忌まわしき鐘の音を呑み込んでいった。 切り裂かれた雨を、彼――クレス=アルベインは駆け抜ける。更に彼の身体が傷付かれようとも。 ◇◆◇ あの鏡は何だ。 いきなりどこからか声が聞こえたかと思えば、作り物の短い足が生えた鏡が遠くから迂回しながら走ってきた。 盤のそばまで来たかと思えばピョンと跳ねて立ち止まる。登場にしてもダイナミック過ぎないだろうか? 対岸の椅子に腰掛ける女神が唖然とする。 それを差し置き、鏡はまるで胸を張っているかのように身体を仰け反らせて女神の方を見る。 一体なにをそんなに誇らしげにする必要があるのか。だが、誇らしげになる理由も分かる。 鏡には女神の表情が映っていた。状況に追いつけてないのがありありと分かる、何とも間抜け面だった。 対面する道化師サイグローグはこれは愉快と、ほの暗い笑い声を上げ、目を細めて微笑を被る。 『どったの? お腹冷えたとか~?』 いきなり現れたかと思えば、いきなり言葉で責めてきた。 なんと無礼にも程がある鏡だろうか。結果として反発心が表に出る。 女神が握り拳を作り上げ、卓上へ向かってどしんと拳を叩きつける。柔和な顔つきに似つかわしくないほど、表面を歪めさせていた。 そんな怒気など通じない、いや、そもそも怒りを向けられていることさえ理解せず、鏡は人懐こそうにグリューネをマジマジと見つめる。 その瞳に、一瞬でも醜く浮かび上がった感情を見逃すことはしない。また愚かしい表情が銀盤の上に映る。 「何の趣向ですか」 「さあ……私は何も……聞くのであれば、あちらの精霊にお聞き下さいませ……ほう、次は綺羅星ですか……私も勉強しなければ……」 眼を鏡から背けるように道化に問うが、サイグローグは女神の詰問もするりと抜けてわざとらしく書物を読んでいた。 ひょいと手を捻らした途端、手の中には虫眼鏡が現れる。 仮面越しに虫眼鏡を使って、老人のように書物の文字を見ている。読んではいない。あくまで、見ているだけだ。 何も言わない女神に、サイグローグは手の虫眼鏡をぐうっと相手の方へと伸ばす。届いてさえいれば押しつけてしまうほどに。 「グリューネ様……まぁた顔が歪んでおりますよ……」 にたにたと笑うサイグローグに、女神グリューネは苦虫を噛み潰したような顔をした。 当然だろう。虫眼鏡越しに見れば顔が歪んで見えて当たり前だ。 しかし、グリューネの方から虫眼鏡を覗いてもサイグローグの瞳は見通せない。 仮面の奥に隠れた目はどこを見ているのか、見当すらつかない。見当も付けたくなかった。 これ以上、いたちごっこをしていても仕方がない。グリューネは顎を持ち上げ、道化師の後方で空に漂う精霊を見つめた。 鷲のように大きな翼と、翡翠を思わせる緑色の長髪。 髪を留める、花のつぼみと枝葉を模した簪の飾りが女性らしさを更に引き立てていた。何よりも、彼女が大樹に纏わる者であることの証左になる。 本来ならば、敵対すべき存在ではない筈なのだが――目尻を引き絞り、大樹の守護者を見据えた。 「ノルン、この鏡は一体?」 『先ほど述べた通りですよ……あの時の紡ぎ手ともあろう者が、とても酷い顔をしていたものですから。 一度ご覧になった方が良いのではないかと思い、こうして呼んだのです。日曜大工程度の拵えとはいえ、使う分には役に立ちますから』 ノルンの答えに、随分と楽しそうな家具がいたものですね、とグリューネは呆れがちに息をついた。 当の鏡はというと皮肉が通じないのか、頭(と思しき鏡の上部)に手を当てながら盤面の裏側をマジマジと見つめている。 『ふんふん、凄っご。こーなってるのか~~……ってあれれ? いつのまにか置いてけぼりでお話~? こら~無視するな~!』 と思えば急に諸手を上げ、地団太を踏んでぷんすかと怒り出すものだから、こっちの方が愉快なのではないかと思ってしまう。 「顔なら見ました。私としたことが、随分と取り乱してしまったようですね。少しはポーカーフェイスというものも学ばないといけませんね」 目を閉じ、テーブルの上で手を重ねるグリューネ。鏡の方へは、もう見向きもしなかった。 もう用済みだから引っ込みなさいと言わんばかりの態度に、鏡は怒ったままだ。 そうだ、そのまま無視してしまえばいい。このようなもの、道化師と審判者の単なる幻惑、戯れだ。 『――――1つだけ、忠告をしましょう』 耳の鼓膜が、後ろ側から撫でられた。もちろん直接ではない。静かな女性の声音が冷水のように浴びせられる。 良く言えば冷静で客観的な、悪く言えば冷徹で感情の乏しい声に、ぶるりと身体が震えた。 『ポーカーフェイスは“表面だけを隠すもの”です。確かに心の内を悟られぬようにするのは、有効かもしれません……ですが』 いつの間にか、前方にいた筈のノルンがグリューネの後ろへと立っていた。 振り返って確かめるまでもない。否、振り返ることができないのだ。 いつの間にか目前のテーブルと盤は消え、代わりに先程の鏡が立っていたのである。 そして、鏡に映る自分の顔が、 『それは、悟られるだけの心の内を自分が知る時のみ。真実を知らなければ、嘘はつけません。 真実のみを純粋に求めるこの鏡の前には、真の無い偽りなど無意味―――――さあ、見えるでしょう? 貴方の心がざわつき、荒れているのが。そう、嵐の日の時化のように』 平静をまるで隠さず、ひどく怒り狂ったものだった。 あまりに自分とは似ても似つかぬ姿に、とても目を逸らすことなどできなかったのだ。 「一体、何を。こんなもの、ただの“まやかし”でしょう」 『まやかしかどうかは、鏡に問えば分かること……鏡よ、この場で一番醜いのは誰ですか?』 『えっとねー、グリューネって人が現在世界ナンバーワンだってさ』 痛烈な皮肉に、ぎこちない笑みを浮かべるグリューネとは反対に、魔法の鏡は楽しげにくるりと一回転してみせた。 回転したところで鏡の向こうにいる自分の表情は変わらない。 「サイグローグを差し置いて私が? 冗談も大概に……」 『まちがーいごーざいませ~ん。嘘だと思うなら何か聞いてみてよ、質問してくれれば何でも答えてあげるよ~!』 「~~~ッ! 何も問うことなどありません。すぐに去りなさい!」 勢いよく手を払うも、魔法の鏡は天を仰いで考え込むような素振りを見せる。 何て空気が読めない鏡だ。ここは場の空気を汲むところだろう。 空気を読まなければ、まるで、見てはいけないものを。 『あり、つまんないな~。じゃ、ちょ~っと意向を変えて、あたしが質問しちゃおーかな!』 ――敢えて。 この鏡は、敢えて空気を読んでいない。珍妙な行動に出るかと思えば、裏側ではかなりの頭脳を働かせている。それすらも自然体というのか。 先程の白銀の騎士のように、サイグローグやノルンの仲間なのか、それとも操られているのかも分からない。 だが、どちらにせよ。この鏡は、確かに女神を追い込むべく動いていた。女神がそれに気付いたときには手遅れだった。 『さっきから酷い酷いってむくれてるけどさ、何がどう酷いのさ?』 先ほどまでと変わらない音調、しかし確かに真剣な声色で鏡は眼前の女神に問う。 『死んじゃった人がいきなり生き返ったこと? 確かに普通は生き返らないよねー。 けど、バトルロワイアルが始まった時だって、死んじゃった人は生き返ってたんだしさ~。 別におかしくないんじゃないかな? 悲しいことだけど、あの子だって死んでた筈だよね』 グリューネは下唇を噛んで溢れ出しそうな言葉を堪えた。 確かに、この遊戯の駒は、元いた世界では既に死んでいる筈の者が大量にいる。 かつて時空剣士と刃を交えた魔王も、人を唆して愉しむ蛇も、実験の果てに壊れてしまった狂人も。 王に弄ばれていた幼き客員剣士でさえ、命は零れ落ちてしまっていた筈だ。 何より王は、勝ち抜いた者への褒美として“死者蘇生”ということも吹き込んでいた。 嘘だと考える者もいた。だが、初めから死んだ者が生き返っているのだから、王は死者蘇生が可能だという点も否定できない。 「ですが、これだけ大掛かりな現象を犯したのです! 王とて、何度も蘇生が出来る訳がありません!!」 『出来ないなんて、誰が言ったの? 【蘇生の為に用いられる術】は使えないよ? 制限されてるからねぇ。 でもさー、制限する側の王様が出来ることは、そんなに不思議? ねえ?』 「そ、それは……!」 最初の一回だけしか出来ないだろう。出来るのであればマーダーを蘇生させているだろう。何度も繰り返した考察だ。 だが出来ないとは、しないとは明示されていない。穴熊に籠った王様のことなど、誰も知らないのだ。確証のない推理など、妄想にも劣る。 正体不明のヴェールに隠れた王様を否定することはできない。それは、例え1パーセントであろうと肯定も在り得るということなのだ。 『あ~っ! それとも、さっき戦ってた剣士くんとあの子が知り合いなのに、戦い合ってたのがダメ? そうだよねー。知り合いとなんて戦いたくないもんね~。あたしもまた教官とかと戦うことになったらイヤだな~』 うんうんと頷く鏡に、グリューネの表情が一瞬和らぐ。 たった少しの呼吸の間は、か細い希望は、後に訪れる絶望のためにのみ存在する。 『けど、それはグリューネやあたしの都合だよ。 もしかしたら、ピピピ~って操られてたのかもしれないよ。お薬とか、魔法とかね。 もしかしたら、誰かを人質に取られてたのかもしれないよ。大切な人の為なら、仕方ないよ。 もしかしたら、混乱して相手が誰かも分かってなかったのかもしれないよ。暗いしね。 もしかしたら、本当に殺そうとしていたのかもしれないよ。優勝して叶えたい願いがあったかも。 整合する可能性は幾らでもあるよ。なのにさ~“ただ知り合いをぶつけた”ってだけで酷いって言うのは、ちょ~っとイジワルじゃないかなぁ』 悪意も諧謔も無く、純粋に不思議そうに自分を見つめる魔法の鏡に、グリューネは漸くその本質を理解し始めた。 この鏡は論理に真実を求めている。感情面で同調することはあれど、理に沿っていなければ女神に味方することなどないのだ。 サイグローグよりも、ノルンよりも、むしろその在り方はベルセリオスのそれに近い。 グリューネの白磁のような顔に、さっと赤味が差す。決して照れや恥といった類の感情ではない。 膝の上で丸められた手が、僅かに震えていた。 「この状況が認められないことを、ただの意地悪だと言うのですか?」 『ほら、あたし、一応研究者だからさ。目の前の現象をただ納得できないからって否定されたら、堪ったものじゃないよ~ 100回同じ実験をして99回同じ結果が出て1回だけ違う結果が出てさ、その1回をただの偶然とか間違いだって切り捨ててたら実験にならないよ』 がたん、と椅子が倒れる。 「それとこれは話が違います! 王が蘇生できたとして、戦わせることが出来たとして、何故、あの少女である必要があったのです!」 勢いよく立ち上がったグリューネは、もはや目の前の鏡像と同じ表情をしていた。 暢気にふらふらと揺れる鏡に、できることなら椅子を投げ付け割ってしまいたい。 止めていたのは椅子を放り投げるはしたなさとまだ少し残る理性、そして白銀の騎士の末路だった。 『事実は事実。こういうことを出来るかもしれない王様のお城で、こういうことが起きた。それだけだよ』 またしても自信たっぷりに胸を張る魔法の鏡に、苛立ちしか覚えられない。 理不尽に対して湧いて出る不快感は本物だ。だが、理不尽が論理によって主張され、道理となる以上、反論することはできない。 『魔法の鏡、マフラーが曲がってますよ』 『あ、ゴメンゴメンお姉さ……よっととい。それじゃ、いきますか~~~?』 鏡がもぞもぞと動き、表面がぼこぼこと波打っている。 ……そもそも。今まで疑問にも思わなかったが、あの鏡、自分のことを研究者だと言っていなかったか? ただの鏡が手もないのに、一体どうやって何を研究するというのか。そして鏡の内側から聞こえる、不自然な衣ずれの音。 ――あの鏡、ただの着ぐるみか! ならば怒り狂った表情も、単なる作りものに過ぎないということではないか。所詮は幻だ。 『って、ほらほら! よそ見していいの? もうかなりピンチだよ?』 今気付いたと叫ぶ鏡の声につられて盤を見て、グリューネはようやく平静を取り戻した。 気付けば、目の前にいた鏡は消え去り、テーブルと盤が戻っている。 だが、事態は少しだけ動いていた。対面している道化師が、剣士の周りへと無数の駒を“詰め終えていた”。 ピンナップマグを読みながら、サイグローグは足で駒を動かしていたのだ。 「……しまった……!」 身体を前のめりにさせ、グリューネは厳しい目で詰問する。 しかし後方に大樹の精霊を侍らせる道化師は、足の指を開閉しながらいつものように卑しく嗤うだけだ。 「隙だらけでございますよ、グリュゥネさまぁ?」 ◇◆◇ 気づけば、少し広々とした空洞へと出ていたらしい。おかげで、敵の総量がおぼろげに把握できる。 「虚空蒼破斬」を放った後でも、まだ機械兵士は残っていた。 流石に、蒼破斬の衝撃波に合わせて駆け抜けても、一発だけでは完全に喰らい切れなかったらしい。 いや、喰い尽くすことができなかった。あの機械の中に埋もれた少女の残骸までも喰うことを躊躇った。 前方を蹴散らすことはできたが、生き延びた兵士たちが後続する。 片やエネルギー量はあろうとも疲れを知らない機械、片や少女の亡骸を抱えた手負いの魔王。 物量で考えても、やがて体力を切らして追いつかれ、無慈悲に命を奪われる羽目になるだろう。死に様はあえて想像しないことにする。 遠くからのデルタレイやバーンストライクといった術が、じわじわと血を奪っていく。 動揺が心を支配し、息に混じり嗚咽にも似た声が漏れるが、少女だけは落とすまいと必死に抱えていた。 むしろ落ち着きのない心理が、手に込める力を強めていたとも言えなくもない。 だが冷静さの欠如が仇となったか。それとも前へ逃げていれば何とかなると思ったのか。 “完全に逃れ切るには、時間が必要”なのだ。 逃げるための時間が足りない内は、敵の攻撃を受けることも厭わない。 逃走には相応の覚悟が必要なのだ。時間を止めている訳でもあるまいし。 終わりなき道に、クレスの体力は刻一刻と削られていく。 そして――誰が一体想像するだろうか。 何と情けない。数多の命を屠ってきた魔王は、あろうことか、石に躓いたのだ。 そして、その拍子に一番手放してはならない欠けた躯を手離してしまう。 <あっちゃー。勝負の邪魔をする気はなかったんだよ、ごめんね~。でもコレ私のせいだよね。う~ん、責任感じちゃうな~~~> すぐさま拾いに立ち上がろうとするが、穿たれる雨がそれを阻む。 前方へ突き動かす力は消え、倒れ伏せたまま、その場に留まる。 顔のない機械兵士たちがニタァと笑ったように見えた。獲物を仕留め、我らが勝利する時を今か今かと待ち望んで楽しんで笑っている。 あるモノは手のサーベルを振りあげ、あるモノは一斉に晶術を唱え始める。 <よっし、じゃあ“ここは私が助けてあげるよ”! カチャカチャ~~ポンっと!!> 不味い、躯を失ったその手で剣を握り直したとき。 そのときには、既に遅かった。 【我が友が吹かせるは祝福<zelhes>の風、夜天の再会を祝して力を貸して<リィンフォース>!!】 “機械兵士”には、遅かった。 ――振り上げたサーベルを落とす前に、本体であろう鎧の胴を矢が貫いたのだ。 クレスがはっと顔を上げようとすると、すぐ横を目にも止まらぬ速さで矢が飛び進んでいった。 頬を掠める炎は目が眩むほどに熱い。だが、その後に感じるのは背筋を凍て付かせるほどの憎悪だ。 我を無くしたかのような乱れ撃ちは、決して出鱈目に放たれているのではない。どれもが機械兵士たちの身体の要所を狙っているのである。 矢羽の一部を毟りて曲射。親指を除く四指の関節に矢を挟みて三射。射法八節全てを無視して狙われるは太股、手首、目、首、心臓、眉間。 弄んだり、確実に殺しにかかり。じわりじわりと、確実に。残される傷にはは憎しみしか残らない。 クレスが今見た、そして“かつて見た”その光景は―――――正しく、狩りとしか言いようがなかった。 連続で矢を放ち、時には同時に矢をつがえ、気付けば機械兵士も化物もみな沈黙していた。 クレスは矢の主の方へと振り返る。疲れ切った顔には、それを忘れさせるほどの笑顔さえ浮かんでいた。 数々の技、矢を放出するリズム、どことなく感じる“匂い”。 それらは、決して悪い結果をもたらさないと予感させるものがあった。 見覚えのある、ひとつに束ねられた銀髪。切れ長の瞳。油断のない、正に獲物を狙う豹のような佇まい。 よく彼が戦場で用いていた弓も一緒だ。矢がつがえられ、引き絞られようとしている。 クレスの笑みが凍りつく。 鳴弦の音がいやに大きく聞こえた。 「……チェスター」 親友は黙ったままクレスを通り過ぎて死んでしまった少女の亡骸へと近付き……座り込んだまま、妹を抱え上げる。 下半身を失った躯を深く、深く抱きしめるその背中から迸る感情が、まるでそれ自体が矢のようにクレスに突き刺さる。 そして感情はすぐさま鉄へと変性し、親友――――チェスター=バークライトの鋭鏃がクレスへと向けられていた。 なぜ。それを問う前に、冷たく矢は放たれた。 無意識に避けようとした本能と乱れた理性がせめぎ合うが、鏃に微かに輝く無色の液体を見た瞬間大きく矢を避ける。 噛み締められた唇は強さのあまり血の気が引き、今にも血がぷつりと現れそうだ。 既に息絶えた妹の死に顔を見つめる相貌には、音さえ聞こえてきそうなほど眉間が寄っている。 瞳孔が開いている。青みがかった眼の黒目から、どす黒い憎しみに満ちた冷気が溢れる。 思わず後ずさりし、刺々しい気を放つ親友から遠ざかった。気付かずに湿った洞窟の壁へと肩が触れる。 壁の低熱でさえ、今ここに立っている目の前の彼が作ったのではないかと錯覚してしまう。 こんな姿見たこともない、と言うつもりはない。 クレスには、この表情にどことなく見覚えがあった。全てが終わって始まったあの日も、こんな顔をしていた。 だが何よりも違うのは、身が凍えてしまいそうな視線――――殺意が、明らかに自分へ向けられていることだ。 「何の冗談だよ、チェスター」 張り付けられたような笑みで顔面を固めさせたまま、クレスはうわ言のように呟く。 もしかしたら、殺しという名の薬でキメてしまったせいで幻覚でも見ているのではないか、とさえクレスは思った。 しかし、この予想でさえ理性的な判断の下に弾き出したものである以上、嘘に違いなかった。 <ピンチに駆けつける親友! ロマンだねえ、お約束だねえ。絶望にはそれに見合った希望を――――物語はこうでなくっちゃねえ> むしろ幻ならどんなに良いだろうか。 チェスターはクレスの言葉に耳を傾けることなく、手で血に固まった妹の髪を解いた。 「こんなにめちゃくちゃに、酷い有様にされて……可哀想に……」 少女の手足は原型を留めていないほどグチャグチャにされており、指も掌も足の甲も記憶の中にある姿を思い出せない。 言ってしまえば少女の体は飾りのついた一本の棒にしか過ぎず、まるで子どもの乱暴で綿を千切り取られた人形のようだった。 そこには人間の尊厳はなく、正に単なる“遊び相手”の姿だ。 <でも“ここは違うよ”。さーって、借金もチャラリらったことだし、あたしに出来ることをやろっかな~!!> 「許さねえ……絶対に……」 チェスターは妹を地面に横たわらせ、幽遠として立ち上がる。 ゆっくりと持ち上げられた腕は、矢を番え、弓を構えて弦を絞る。 身体から指先へ、そして弓へと伝播した憎悪は、鳴弦を首を絞めるかのような音に変化させる。 三日月型にしなった弓の体は美しく、ゆえに冷たくて孤独だ。決して届くことのない、遠い存在。 「俺は絶対……テメェを殺す……!!」 【ほいさ、流れて転ベ紅蓮の螺旋<ファーストアタック>!!】 チェスターの双眸がクレスを捉える。既にクレスは矢で括り付けられたかのように、身動きを取ることができなかった。 暗闇の中に浮かぶふたつの眼は、相手に狙いを研ぎ澄ましているようで、まるで何も見ていないようだったからだ。 空虚に満ちる殺意だけが、今の彼を動かしている。 “殺したい人間”という存在が、的を射止めるためだけに、矢の精度を確かなものとさせる。 放たれた弓は避けてさえいなければ、確実にクレスの心臓を抉り一瞬で命を終わらせていた。 だが、さっきの機械兵士たちのときのように、矢は一本で終わらず霰として降り注ぐ。 太股、手首、目、首、心臓、眉間。チェスターにとって、目の前の殺人鬼は狩りの対象でしかないのである。 「止めろ! 止めてくれ、チェスター!」 抵抗することなく、回避と戦斧による防御を繰り返してクレスは呼びかける。 しかしチェスターが手を緩めることはない。 「テメェがアミィを殺したんだろう! なんだよ、あの傷。逃げるあいつを、甚振るように、楽しそうに!!」 ざわり、と背筋に悪寒が走る。 殺した。確かに――殺したのは僕だ。剣を突き立てたのは僕だ。反論のしようのない事実に喉の奥が渇く。 けれども、甚振ったのは僕じゃない。僕の姿をした、僕じゃない別人だ。 それともあれも僕なのか? 目を逸らしてはいけない、もうひとりの僕なのか? 確かに、あれも僕だ。全力で反吐を吐きたいくらいに僕だ。けど、だけど。 自分と、自分じゃない自分、けれども自分自身。どちらも違く、どちらも正しい。 何を肯定していいのかも分からない感覚に、クレスの頭は混迷し、いっそのこと煩わしい全てを斬り捨てろと心が囁く。 「……違う! あれは、僕じゃない!!」 「そんな物騒な得物を振り回しておきながらよく言うぜ! 全く、大した快楽殺人者だな?」 必死に内側の疼きと、それが齎しただろう惨事を否定するも、チェスターには届かない。 ただ目前の殺人鬼を殺すために指先が弾かれる。せめて荘厳に逝けと音色を奏でるかのように。 「あんな無残な姿になるまで痛めつけるなんて、テメェは人間か?」 「違うんだ! あれは」 キッとチェスターの目付きが鋭くなると、矢に赤い光が集う。 「黙れよ、この気狂い!!」 クレスの身体が跳ね、動きを止める。 矢が首元を掠めていったが、気にする余裕など奪い取られていた。 ――――気狂い、だって。僕はもう狂人でしかないのか、チェスター。 血のように赤い光を帯びた矢は……否、矢の形をした光は、幾重にも分岐し無数の矢を形成する。 洞穴を照らす冴えた光は、憎悪に満ちたチェスターの表情と、今にも張り裂けそうなクレスの心を曝け出させる。 【夜鷹の爪跡、円環を描き龍を屠る<ホークネイル>!!】 「殺す……絶対ェ殺してやるっ!! 地獄の果てまで、どこまでだろうと、追いかけてやるッ!!」 背中から数本の矢を掴んで、チェスターは懐の瓶へとその鏃を浸す。 その様からクレスは容易に確信した。先ほどの矢の輝きは、やはり毒か。 だが、クレスの気づきなど知ったことかとチェスターは毒矢を掴んで射撃を放つ。 チェスターの最終弓技・屠龍が、それぞれが歪な曲線を描いてクレスの下へと収束する。 親友の弓の腕は誰よりも知っている。紙一重ならともかく、毒を食らわぬよう完全回避するのがどれほど困難なのかも。 クレスは襲い来る毒爪を防ぐことなく――「不味い」と警鐘を鳴らした無意識が、ひとりでに身体を動かし、前へ進みながら矢を避けさせた。 情けない面貌のまま、無駄のない身のこなしで回避する姿は奇妙にすら見える。 そして意識の制御を離れた肉体は、剣を携え、笑い、何気なく親友の肉を抉ろうと (だめだ) 剣を握る左手の首を右手で押さえ込む。笑いかけた口の端を必死に歯で食い縛る。 無意識は、もうひとりの僕だ。 理性で御し、意識で抑えなければ、浅ましく血を啜ろうとする欲望が露わになる。 たとえ既知の人間であろうと、幼い頃から一緒だった幼なじみであろうとも。 だが、攻撃を止めて敵に接近するなど痴愚の極みでしかしかない。絶好にして絶体絶命の隙が生じていた。 【前触れの無い悲劇、それは突然の衝撃<サドンインパクト>!!】 そしてこの少女が、阿呆な隙を狙わない理由がない。 「隙だらけです……五月雨ッ!」 クレスは、平静な声が聞こえてやっと後ろに誰かがいることを知った。 ぎりぎりのところまで気配に気づかなかったのは当然である。クレスの背後に立つ少女は忍者だからだ。 悟ったときには、既にクレスの首筋には赤黒く変色した血のような色の刃が添えられ、静かに、 「――――ッ!!」 刃は空を咲いた。 空間翔転移でとっさに移動したクレスは、逆に少女の後ろを取る。 まだ背が低く幼い体躯でも、纏った経験と冷酷さは隠し切れない。大きく束ねられた栗色の髪が目に留まる。 少女は静かに振り返る。横顔が髪の奥から覗く。あどけない面差しに、色のない眼光が宿る。 「すず、ちゃん……どう、して……!」 親友と同じく、ここにはいない筈の少女の姿に、クレスはおののく。 幼き頭領、藤林すずもまた死んだ筈なのだ。そう放送で言っていたではないか。 死者とは思えぬ大きく円らな瞳は悲しみに満たされ、クレスの顔を映していた。 だが、きゅうと半秒目を瞑り、再び開かれた“まなこ”には静湖の如き静謐な覚悟―――忍びの境地が映る。 「その振る舞い……ダオスに洗脳された方とお見受けしますが、私の使命は道半ばで潰える訳にはいかない……御覚悟を!」 立ちはだかる者の命を奪おうと、すずは忍刀を構え、空いた手で複数の苦無を備える。 有り得ない光景に、クレスは胃のむかつきさえ覚えた。 状況はワン・オン・ツー。こちらは剣を振るうことを躊躇し、相手方は仲間と同じ姿のくせに殺る気満々だ。 戦わなければならないのか。仲間を殺さねばならないのか。 悲しみは雨のように降り注ぐ。 【終焉の宣告にはまだ早いよ~~! グルーヴィな音階で運命を導け<フラックスフォーム>!!】 雨を、クレスは剣を翳して除けた。 逆さに突き立てた剣から、方陣が天に刻まれ、青い守護の傘を作り出す。 全ての機械兵士が矢に貫かれたはずが、術の雨は未だ止んではいなかった。 否―――クレスだけを狙って降り注ぐこれは“魔術の雨”だ。 傘越しにクレスが見上げれば、上空では箒に跨った魔女が飛んでいる。 指先にマナを集中させ、銃弾を放つような気軽さで低コストの魔術を連発する。 ファイアボール、アイスニードル、ストーンブラスト、ウィンドカッター。根幹たる四元精霊の基本術を、それこそ雨粒のように降らせている。 「アーチェ……!?」 「チェスター! あたし、チェスターと一緒だよ! 一緒にいるよ! チェスター!!」 桃色の魔女アーチェ・クラインは楽しそうに笑い声を上げながら、クレスを殺そうとしていた。 傘はやがて雨粒の威力に耐え切れず霧散し、やむを得ず虚空蒼破斬の闘気の網で無理矢理にでも術を掻き消す。 それでもなお詠唱を紡ぎ、クレスを誅殺せんと、さながら戦闘機械のように魔術を繰り出していく。 その箒の先につけられた神秘の紋章が、彼女の狂気に呼応するように詠唱を加速させる。 「うるせえぞアーチェ! 喋ってる暇があったらアミィを殺したあいつをそのまま貼り付けてろ!!」 「う~~~~でも、いいよチェスター! それでアンタが喜んでくれるなら、私は誰だってブチのめしちゃえるんだから!!」 魔術と弓術による遠隔攻撃のタッグを、ひたすらクレスは往なしていく。 隙を突いて必殺を狙うすずの一撃を、かろうじて防いでいく。 息が絶え絶えに切れる。何故だ、とクレスは頭の中で何度も何度も問うた。 何故、こちらを攻撃してくる。何故、戦わねばならない。 【……ホントにこれやっていいのかな~~~? ま、いっか! 四連携完了・4倍速詠唱!! 具現せよ新たなる原罪。その罪贖うは我が振う灰燼の剛腕<ドリームファンダム&フラドブランム>ッ!!】 決まっている――――――戦わなければならないからだ。お前が産み落とした罪を、購う為に。 「なっ……!!?」 突如、噎せ返るような熱波が洞窟内に巻き起こる。 肌を刺す熱が意識を一瞬でも空白にし、強烈な風が髪とマントを煽り立てる。 洞窟が強く赤く照らされた。光源は、洞窟の地面が融解したことによって現れた、活力に溢れたマグマだった。 クレスは絶句する。――どうして。どうして“貴方”がいるのか、と、呻きすらしなかった。 熱気に包まれ、人影はおぼろげにしか見えない。黒い影があるだけで、輪郭すらはっきりとしない。 本当に“貴方”がいるのか、一目見ただけでは分からなかった。 「援護、感謝します! このまま一気に押し切りましょう!!」 『試練でもなく、精霊王を敵に回すとはな……実に業腹であるが、この世界では主の契約に従うよりないか…!!』 だが、すずがイフリートの主と会話しているのを見ては、クレスにとってはそうとしか考えられなかった。 いきり立つマグマの中で聳えるは、火の精霊イフリート。召喚術を使え、そしてすずの仲間なのは、ただひとりだけ。 なぜここにいるのか、という問いさえ最早口に出来なかった。生と死をぐちゃぐちゃにされたこの地獄で、いるいないを問うことも徒労だ。 クレスの疑問に答えることなく、イフリートはゆっくりと炎で燃え盛る腕を掲げる。 「クラ―スさんも、敵だっていうのか……!!」 その光景にはやはり見覚えがあった。 世界の元素を司る高位存在、精霊。召喚術は彼ら彼女らと契約を結びて呼び出す。その威力は計り知れない。 クレスはもはや本能的に、召喚術を阻止しようと動いていた。 アミィのときは、狂気に身を任せずとも何とかすることはできた。 しかし、かつての仲間たちを複数同時に相手にするなど、今の“僕”にできるのだろうか? 否、“温過ぎる”。仲間だからといって剣を振るうこともできないなど、温過ぎる。ただの魔王には荷が重過ぎるのだ。 跳躍し、時空の剣に蒼い光を纏わせる。光は刀身の形を作り、本来の刃よりも数倍大きいものとなる。 時空剣技・次元斬が、精霊の腕から生まれる火球を切り裂かんと、 【すかさず回避! 我を守れ限りなく絶対たる騎士の円楯<アクセルモード・ラウンドシールド>ッ!!】 洞窟を駆け抜ける影が、跳躍し、剣を振り上げる。 クレスの目の前に現れた影もまた、同じように蒼い光を剣に纏わせていた。 長大した光の刃は、クレスの次元斬に酷似していた。ゆえに、それらが鍔迫り合いをすれば、打ち消し合うのも必然と言える。 蒼刃が消え、イフリートの赤光によって影が照らされる。姿が曝け出される。 時空剣技を真っ向から打ち破れるのは時空の剣しかない。 あの機械の群れに“自分”を混ぜてこなかったのはこのタイミングで隙を突くためかと、クレスは驚きを納得しようとした。 しかし、向かい合った自分の眼を見て、クレスはその気持ちを霧散させてしまう。そこにいたのは狂人ではなかった。 傷の付いた年季の入った鎧、赤いマント、赤いバンダナに……濁りのない、茶色の瞳。 クレスは思い出す。そうだ、チェスターが弓を射る隙を守ってきたのは、すずちゃんの忍術と共に前線を守ったのは、 アーチェの、そしてクラ―スさんの詠唱時間を作ってきたのは、いつだって君だった。 それはきっと、魔王が失ってしまった昔日の楯。誰かを失うことなく、その背中に守るべきものをもった青年。 (今更―――――俺に騎士の真似ごとなんて、見せるなよ!!) 剣の魔王は嗤った。自らの狂気に―――“嫉妬”に身を委ね、目の前の“光”を一瞬で惨殺した。 ◇◆◇ グリューネは、指先で掴んでいた白い駒をそっと静かに置く。 表情は晴れやかなものではなく、口唇の先は僅かに震えてさえいた。 今は、やむを得ず魔王に敵の一駒を斬り伏せさせたが、本当ならば手を出したくはなかった。 「……こんなオカルト、あり得る訳が……」 【コドクナタタカイヲツヅケタダオスヘノ……】 『セメテモノタムケダ~~ってね。よくできてるでしょ? 名付けて「メカボ中年2号」!』 真正面を見据え、グリューネは鷹揚すら見せずに吐き捨てた。 対面に配置されたのは4つの黒駒。いずれも、明らかにこちらの駒に対応して選出されている。 いくら王の下へ行かせるのを阻むためとはいえ、死んでいった仲間たちと戦わせるなど、鬼畜人外の行いとしか思えない。 道化師の後ろに控えていたノルンは、背の翼でふわりと盤の上空へと浮遊する。 「どうやって作った? いや、それより、何故プレイヤーでもない貴女が指せる?」 『どうやってって言われてもな~~~こう、ドデスカ~コン!ってね!! それにこれくらい、このオジサンじゃなくたってルールさえ分かれば誰だってできるよ?』 「…………これも、王の権利行使ですか? ノルン」 『そうです。死者の存在も、異なる世界の人間の召喚も、王は初手にて行っている。全ては合法、故に真実として受理される』 「そうでございます……勿論、ジャッジ……いや、元ジャッジ(仮)である私の目から見ても……これは“通し”でございます……」 無言でグリューネは歯を噛み締めた。 こんなことがあってたまるか! そう叫びたくなったが、法の、ルールの下で成立している以上、何も返すことはできない。 どんなに理不尽で、許しがたくとも、現実として受け入れるしかない。 (ですが……ですが……死者をいくらでも蘇らせることができ、かつ幾らでも追加で駒を召喚でき、 挙句理由も無く自分の思い通りに動かすことができるというのが絶望側の、王の権力だと云うのなら……それでは……) 『自分に勝ち目がないなんて“酷過ぎる”?』 それが鏡の言った言葉だったのか、自分の心から出た言葉なのか、グリューネは理解するのしばしの時を要した。 自分の顔はさっきの鏡に映ったような醜い顔をしているに違いなかった。思い出す度に戒めねばという気持ちに駆られる。 その鏡はというと、ついに正解を解き明かしたという陽気さで部屋の中でくるくると回って遊んでいた。 ノルンが目配せすると、魔法の鏡は数十秒考え込んだあと、どこかにある手をポンと打った。 「そっかそっか。やっぱりそう思ってたのかあ。なるほどねー。ほんじゃ“いきますか”~~~?」 訳の分からないコンタクトに、グリューネは頭部に電流が走るのを感じた。 何か、何か――嫌な予感がする。 ノルンは手に持っていた杖を魔法の鏡の方へと放り投げる。そして、鏡はどこからか腕をにゅっと伸ばした。 全身が映るほどの鏡に、腕と足だけが付いた、なんて不格好な姿。だが、魔法の鏡はその怪しい外見とは真逆の、厳かな姿を見せる。 精神集中によって杖はくるくると自転する。 敵の連携は全て揃った。陣容が整った以上、向こうがやることは一つしかない。 間違いない。これは、詠唱だ。例えその文句が、どれだけふざけていようとも。 ◇◆◇ びちゃり、と空から地面に死体が落ちた。 イフリートの振り落とした炎の腕が、灼熱の衝撃波を生み、死体は数秒で灰となった。 魔王クレスは転移によって後方へと陣取る。けれども、地面に着地した時には既に、次なる一手が訪れようとしていた。 【開け過去の扉。砕けたカケラ、一網打尽にみんな集まれ~~~~~~~~♪】 これまでの闇と打って変わって煌々と燃える地獄の底で、処刑人達が処刑道具を輝かせる。 弓は何本も矢を束ねて構えられている。 魔術は詠唱待機にされ、すぐにでも発動できる状態だ。 姿なき召喚術士は新たな術を紡がんとし、精霊と対話をしている。 そして、それらを庇うかのように、小さな忍者は忍刀を携え構えている。 誰もが、今ここで燃え尽きたクレスを見ていない。その眼は、殺すべき者だけを見据えている。 剣士というものは、例え複数が相手であろうと、攻撃の順序がそれぞれ違っていれば対処ができる。 だが一説によれば……3人同時に襲いかかった場合、世界で1番強い剣豪であろうと、命を散らしてしまうという。 これからクレスに襲いかかろうとするのは、正に“一斉砲火”だ。 仲間たちは、確実にクレスを殺そうとしているのだ。 <両者、布陣を確認……審議を開始します。グリューネ……願わくば、これが結審となることを祈ります> 弓の弦が鳴る。マナが爆発しようとしている。忍んで、静かに命を奪おうとしている。 決断せねばなるまい。ここで死ぬか、それとも―――― 【そんじゃお待たせしました! 希望が勝って当たり前、絶望が負けて当り前。 ―――――まだこれが“そんな物語”だと思ってるそこのカミサマに。アタシが勝利より重き敗北を具現するッ!!】 鏡の国に迷い込んだクレスに向けられるのは、自由な彼女が招きし時を越えた戦士達。 自由に楽しそうに、真実が物語を破壊する。 【いくぜみんな、レッツラゴー! 誰もが夢見た大進撃<ドリームストライカーズ>!! ぅいやっほ―――――いッ!】 悪夢が現へと突撃し、終焉の訪れを告げる銃杖の撃鉄が引かれた。 チェックメイト。 クレス=アルベインは、ここで死ぬ。 【クレス=アルベイン 生存確認】 状態:HP10% TP50% 第四放送を聞いていない 疲労 眼前の状況に重度困惑 狂気抜刀<【善意及び判断能力の喪失】【薬物中毒】【戦闘狂】【殺人狂】の4要素が限定的に発露しました> 背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷多数 背中に複数穴 所持品:エターナルソードver.A,C,4354 ガイアグリーヴァ オーガアクス メンタルバングル サンダーマント 大いなる実り 漆黒の翼バッジ×2 コレットのバンダナ装備@少し血に汚れている 基本行動方針:剣を振るい、全部を終わらせる 第一行動方針:君達も斬れと――――――? 第二行動方針:ミクトランを斬る。敵がいれば斬って、少しでもコレット達の敵を減らす。 現在位置:中央山岳地帯地下 【Chester Barklight? 存在確認】 状態:HP100% TP100% アミィを殺した者への深い憎悪 BOSS 所持品:クレインクィン@TOP(残り矢数:100%) 毒(液体) ???? アミィの上半身 基本行動方針:号令・お前に任せる発令中。キャラクター固有の思考にて行動します。 現在位置:中央山岳地帯地下 【Arche Klaine? 存在確認】 状態:HP100% TP100% チェスターへの狂おしいまでの愛情 BOSS 所持品:ミスティブルーム ミスティシンボル ???? 基本行動方針:号令・お前に任せる発令中。キャラクター固有の思考にて行動します。 現在位置:中央山岳地帯地下 【Fujibayashi Suzu? 存在確認】 状態:HP100% TP100% 忍としての冷徹な覚悟 BOSS 所持品:忍刀・血桜 苦無(20/20本) ???? 基本行動方針:号令・お前に任せる発令中。キャラクター固有の思考にて行動します。 現在位置:中央山岳地帯地下 【イフリート 存在確認】 状態:HP100% TP100% 召喚状態 BOSS 所持品:無し 基本行動方針:契約者の指示に従い、敵を焦滅する。 現在位置:中央山岳地帯地下 【Cless Alvein? 死亡確認】 ※支給品(1~3。一つは剣型の武器)が周囲に落ちています。 前 次
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温もりの笑顔と冷たい笑顔-Another side -smile and tears- NG:Another side -smile and tears- 逃げていく鍛冶屋の鞄から転がり落ちる一つの実。 「これは…イグドラシルの実!?」 それを拾うと一目散に冷たくなった少女の元へと駆け寄る。 「ほら…食べろよ、食べれば…元気に…なるだろ…」 しかし、その凍りついた笑顔の口は、堅く閉ざされ開かない。 「貸しな」 有無を言わさず弓手の手からイグ実を奪い取るのは、セージ。 彼女はそれを口に含み、咀嚼し、少女へと口移しで飲ませていく。 何回も、何回も。 その実を全部、冷たい少女に嚥下させるまで。 最後の一口を飲み込んだとき、死んだはずの少女はゆっくりと目を開く。 「ん…皆、そんな心配そうな顔してどうしたん…?」 少女の眼前には今にも泣きそうな顔が三つ、並んでいた。 「なんや…えらい疲れたわ…そうやなぁ、でも…楽しかったわ…」 「もういい、しゃべるな」 流血は止まっていたものの、このままではせっかく吹き返した命が、またどこかへ行ってしまう。 そう直感したセージが、アルケミストの少女を制止するが。 ――既に少女の耳に、音は届いていなかった。 「最初は…不幸やと思ってたんや…こんな、くだらないゲームなんかに参加させられて… でもな、最初にセージの姉御…に、あって…安心したんや。少し、幸せ感じれたわ… アチャ君…。キミにもあえて、ほんま良かった。 あの時は殴ってすまへんかったな…姉御と会う前のうちに、被りすぎてたんや…キミが。 だから…ほっとけへんのや…。これからも、頑張れ…な。 このパーティの、唯一の男なんやから…男として、胸張れや…。 ああ…ほんま、眠いわ……。少し、眠るわ――――」 「おい…おいっ!?…寝るな…寝るなよ…っ!」 弓手の言葉もむなしく、その身体は力なく倒れこむ。 そうして、一度息を吹き返した少女は。 同じ場所…弓手の腕の中で、安らかに笑顔を浮かべ、息を引き取った。 それはそれは、ただ本当に眠るように、安らかに、幸せそうに。 目次 139.関連話
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579 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2008/10/21(火) 18 23 22 ID i/y6247X0 MBS 岡田、大矢監督続投に驚く 横浜の知り合いの関係者を「おいちょっと来い」とベンチ裏に呼び出し、理由を問いただす 580 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2008/10/21(火) 18 25 32 ID Rgw9s/XV0 大矢電撃辞任?来た!来た! (来期の横浜優勝に)期待してもらって結構です 581 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2008/10/21(火) 18 27 55 ID nWYygn990 ★おいちょっと来い もしくは ★おいちょっと来い(とベンチ裏に呼び出し、理由を問いただす) 582 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2008/10/21(火) 18 29 29 ID i/y6247X0 正確にはこうみたいです MBS 大矢監督の続投が決まった時に、驚いた岡田監督は懇意にしている横浜のコーチをわざわざ呼んで、 「おい、横浜はどないなっとるんや」と問いただした 583 OOY sage 2008/10/21(火) 18 31 17 ID F9wCi3cv0 何でそんなことを、ぞく投のあれを、言われなくちゃならないんだ! 10日前 806 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2008/10/12(日) 21 51 01 ID c3XnpaKy0 横浜大矢明彦監督(60)が試合前、阪神岡田監督が球団に辞意を申し出たことについて触れた。 「昨日(11日阪神戦)のメンバー交換のとき、辞めると言われたよ。いろいろ大変だったみたいだよ」と話した。 今季、両チームの対戦では死球を巡る“遺恨”もあったが、2シーズンを戦った敵将を思いやった。 http //www.nikkansports.com/baseball/news/f-bb-tp0-20081012-418476.html 何か(危機感が)足りんな
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せつなが消えてどれくらい経ったのか。 時間の止まった部屋に祈里もまた、足止めされている。 一人取り残された祈里は乱暴にベッドに身を投げ出した。 ふわり……、とせつなの香りが全身を包む。 (匂いだけなら………) 匂いだけなら、まだこんなにも愛しい気持ちになるのに。 辛い。そう思っていた頃がいかに幸せだったか思い知る。 ふと目が合う。不意に肩が触れ合う。笑顔であだ名を呼ばれる。 それだけが、自分に手に入るすべてだった頃が。 辛い、そう思ってた。自分を見てくれない。気持ちに気付いてくれない。 どんなに焦がれても、手が届かない。 眠れぬ夜を過ごし、ラブへの嫉妬で身を揉んだ。 けど、その思いは決して穢れたものではなかったはずだ。 よく、こんな事が出来たものだと思う。自分だったら死にたくなるだろう。 自分の行為を棚上げして、他人事のようにそう思う。 酷い、事をした。誰が聞いても眉をひそめ、自分を糾弾するだろう。 『許して』、その言葉を口にするのすらおこがましい。 「好きよ」 「本当に、不思議だけど」 せつなが自ら発した言葉だとしても、本心だと言う保証なんてどこにもない。 逃れるために、口にした保身のための台詞だとしてもおかしくはない。 心のない、虚ろな繰り事を飽くことなく強要してきたのは、 他ならぬ祈里自身なのだから。 「……『好きよ』だって。」 馬鹿にしてるの?わざと投げやりに聞こえるように声に出してみる。 上手く、いかない。 嬉しい、確かにそう感じている自分がいるから。 許してもらえるの? あり得ない事を考える。 どうしたって、言い訳すらするのは卑怯だろう。 確かに辛かった。どうしようもなく。 しかし、だから何だと言うのだ。 そんなこと、せつなには関係ないのに。 一度たりとも、せつなに直接思いを伝えた事なんてなかった。 それを、せつなが気付かないからと言って、彼女に何の責任があると言うのだ。 自分の狡さを直視すれば、自分が壊れてしまう。 本当は分かってた。せつなが自分を見てくれない。そんなのただの言い訳だって。 わたしは、自分のものにならないと分かってる物を壊してしまいたかっただけ。 だから、その責任を壊される本人に擦り付けようとした。 『せつなちゃんが悪いんだからね』 そう言いさえすれば、よかったのだ。 そうすれば、せつなに何をしても自分は悪くない。そう、 自分を騙す事が出来たから。 言い訳さえ手に入れれば、せつなにはいくらでも辛く当たれた。 体を弄ぶばかりでなく、心も苛んだ。 人として、こんな事は絶対に言われたくないだろう言葉を敢えて投げ付けてきた。 せつなは一度として反論なんてしなかった。 呼び出せば、いつでも応じる。 最初は震えていた。特に初めて呼び出し、わたしが本気でなぶる気だと 理解すると紙のように白く血の気を引かせていた。 始めの数回は、終わるといつも堪えきれないように泣き叫んだ。 許してくれと言う懇願を、わたしは子供の戯れ言程にも相手にしなかった。 せつなを完全に支配下に置いたかのような、歪んだ満足感。 わたしは、どうにでも出来る、と。 しかしその内、せつなは心を閉ざし、人形のように空の体を差し出す事で、 自分を守ろうとするようになった。 心の中から自分を消し去ったせつなに祈里は苛立ち、ただ、せつなをいたぶる。 いつの間にか、そんなふうになっていた。 壊れてしまえばいい……本気で、そう思いながら。 心は諦める。せめて体だけでも。………そう思っていたはずなのに。 せつなの体の甘美さは祈里を陶然とさせた。 夢中で貪り、すべてを忘れた。 しかし、せつなの心は祈里の一切を無視した。 拒絶ですらない。せつなは自分を弄ぶ祈里を、心に蓋をし、完全に閉め出した。 体は確かに愛撫に応える。でもそんなものは、ただの反射に過ぎない。 目にゴミが入れば涙が出る。食べ物を口にすれば唾液が涌く。 それと、同じ事。分かっていた。 だから、敢えてせつなの体の変化を事細かくせつなに聞かせた。 (気持ちよさそうね。ラブちゃんじゃなくても、感じちゃうんだ。) ラブの名を口にしたときだけ、せつなの瞳が揺らぐ。 愛撫を快感として受け入れる自分の体に罪悪感を覚えている。 そんなせつなの様子に祈里は暗い満足感を覚えていた。 「もう、ここには来ないわ。」 何がせつなにそう言わせたのかは分からない。 今のせつなに鎖を断ち切り、振りほどく力などないと思っていた。 でも目をそらさず、そう、確かにせつなは言い切った。 本気で、ラブに話す気なんだろう。 わたしが好き。わたしの気持ちが悲しい。 せつなは、真っ直ぐに目を見てそういった。 先に目をそらしたのは、わたしの方。 (わたし…勘違いしちゃうかもよ……) 謝れば…、許してもらえるのかも……って。 謝るなんて卑怯だろう。 傷付けた相手に、許しを強要するなんて。 後悔してる……なんて、口が裂けても言ってはいけない。 謝って楽になる。わたしに、そんな贅沢は許されないはずだ。 踏みつけにした相手にすがって、許しを乞う。 自分にそんな勇気があるとは思えなかった。 せつなは自分の部屋に戻るなり、へたり込んだ。 (アカルンって便利よね……) こんな姿、誰にも見られなくてすむもの。 立っていられない。平衡感覚がおかしい。ベッドまで這って行く気力もなかった。 蛇口が壊れてしまったかのように、涙が止まらない。 私は、おかしくなってしまったんだろうか。 祈里の言葉が頭を回る。 「わたしのこと、考えたことなんてないくせに。」 本当に、その通りだったな。と今さらながら感じる。 今まで愛情も、優しさも何一つ与えられた事はなかった。 その私が、生まれ変わって溢れんばかりの愛情に包まれた。 家族、友達、そして何より大切な人。 空っぽだった心身にそれらは惜しむことなく注ぎ込まれ、溢れて、こぼれていった。 そして私は、慣れない幸福に溺れてしまったのかもしれない。 こぼしてしまったものの中に、取り返しのつかない大事なものがあったかも知れないのに。 祈里は大好きだった友達。ラブを除いて、「東せつな」として 生まれ変わってから、初めて出来た友達。 ラブとは違う、私がイースだった過去を知った上で、 微笑んでくれた。 『気持ちよくなれれば、誰でもいいんじゃないの?』初めての夜、祈里に言われた。 深い意味はなく、ただなぶるために投げられたのだと言う事は分かる。 でも今になって、心に突き刺さる。 (本当に、そうだもの。) 半分当たっていた。今なら、そう思う。 ラブとはまた違った、控え目で柔らかい祈里の空気が好きだった。 祈里といるとホッとする。ゆったり時間が流れて、癒されるって こんな感じなのかと知った。 でも私は、本当に祈里が好きだったの? ただ、祈里がくれる心地よい空間が好きだっただけ。 自分を優しく包んでくれる空気。 そう、心地よい気分にさせてくれるなら誰でもよかったのかも知れない。 祈里でなくても……。 そして、ふと、心をよぎった思いがある。 どれほど、心身が悲鳴をあげても私はラブに抱かれたかった。 例えラブの目に探るような固いしこりが見えても。その手から優しさが消えても。 体だけでも繋がっている。そう思えるだけで、嬉しかった。 (祈里も……そうなの…?) 心が手に入らないなら、体だけでも。 無理矢理にでも体を重ねれば、何かしら相手の心に自分を刻めるかも知れない。 祈里を、自分に重ねてみた。 もし、ラブが…自分を見てくれなかったら。 ただの友達。それだけならいい。我慢できる。みんな同じなら。 誰も特別な人などいなく、みんなと同じ、ただの仲の良い友達。 でも、そのラブの目にはいつも他の誰かが映っていたら。 『あなただけが特別』、誰が見てもそう思う相手が、すぐ身近にいたら。 ラブが自分を他の誰かの代わりに抱く。 どれほど体を重ねても、ラブの心に自分の影すらない。 愛し気に愛撫を繰り返しながら、他の誰かの名前を呼ぶ。 考えただけで、心が凍り、ヒビが入る気がする。 たぶん、正気では、いられないだろう。 私が、祈里にしていたのは、そういう事。 (もう、止めなければいけない。) 祈里の心が壊れてしまう前に。 そう思った日、初めて祈里を思って涙が出た。 ラブは許してくれないかも知れない。 穢らわしい物を見るような目で見られるかも知れない。 けど、ラブにどう思われようと、側にいることは出来るはずだ。 ラブが、許してくれなくても私がラブを好きでいる事は出来るんだから。 私が心を閉ざし、踞っている間にどれだけラブも祈里も傷付いただろう。 自分が一番辛いと思い、目も耳も塞ぎ、過ぎるはずのない嵐をやり過ごそうと 意味の無い我慢を重ねていた。 私さえ、ちゃんと目を開いていれば、もっと早く終わらせる事が 出来たはずなのに。 (私って、本当に馬鹿……) 今日だって、祈里とちゃんと話そうと思って行ったのに。 いざ、祈里を前にすると体がすくんだ。きっぱり拒否する事も出来ず、 伸ばして来た手を押し留めるのが精一杯だった。 それに……、祈里と話すために行ったのに、口から出るのはラブの事ばかり。 あれではますます祈里を傷付けただけではなかったのか。 最後に、取って付けたように『祈里が好き』。 後は逃げるように帰ってきてしまった。 優しくしてくれるから、祈里が好きだったわけじゃない。 何を言われても、どんな事をされても嫌いになんてなれなかった。 だから、もうこんな事はやめにしたい。 そう、伝えたかったのに。 祈里は、私の言葉を信じてくれただろうか。 もう、元には戻れないのかも知れない。 来てしまった道を後戻りは出来ない。 けど、また違う道に進む事は出来るのではないか。 話せばすべてが壊れてしまうかも。 でも、このまま暗い穴の中へみんなで堕ちていくよりは、 ずっとマシだと信じたい。 まだ、間に合う。……そう、信じたかった。 (………お願いします。) 祈った事なんてなかった。でも、今は何かに祈らずにはいられなかった。 4-33へ続く
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プシュケの涙 作者 柴村仁 イラストレーター 也 レーベル 電撃文庫・メディアワークス文庫 「こうして言葉にしてみると……すごく陳腐だ。笑っていいよ」 「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」 あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる――あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。 夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降り自殺した。そのわけを探る二人の少年。一人は、全てがうまくいかず鬱々としてる受験生。もう一人は、何を考えているかよく分からない“変人”。そんな二人が導き出した真実は……。 柴村仁による青春小説。ミステリ調の前半+恋愛小説調の2部構成になっており、見開きイラストで区切られている。 ファンタジー要素はなく、一般文芸作品に近い。 「自殺」をテーマに取り扱っており、陰鬱とした雰囲気を与えるが、透明感のある文章で丹念に綴られている。 それゆえ女性や一般文芸読者にはとっつきやすいが、ともすれば『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』並みの鬱小説になりかねないので、そういうのが嫌いな人は避けたほうがいい。 シリーズはメディアワークス文庫に移籍し、『ハイドラの告白』・『セイジャの式日』の三部作となった。(世界観の繋がった番外編として『おーい、キソ会長!』がある)
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PageLastUpdate 2007-07-24/today - /yesterday - DebugTimer 2007/07/23 デバッグ用のマーカーとして、メッセージボックスを利用できる静的クラスです。 インスタンスの宣言は必要ありません。 呼び出しと呼び出しの間隔を出力するのでパフォーマンスのボトルネックがすぐわかります。 既存の「MessageBox.Show」をそのまま「DebugTimer.Show」に置き換えて使えます。 既存の「Debug.WriteLine」をそのまま「DebugTimer.WriteLine」に置き換えて使えます。 どちらの方法で指定しても、各呼び出し間の所要時間を出力ウインドウに表示してくれます。 メッセージボックスを開いてから結果を返すまでの「ユーザーオペレート」の時間が別途測定されるので 操作待ちなのかそうでないのかがはっきりします。 使用例) IF DebugTimer.Show("×××します。よろしいですか?","xxxの実行",MessageBoxButtons.OKCancel) = DialogResult.OK Then 処理 DebugTimer.WriteLine("xxx処理終了") End IF 出力ウインドウへの出力) ※罫線が出るわけではなく、タブ区切りです。 動作 起動から 前回から 表示テキスト SHOW 00 00 000 00 00 000 ×××します。よろしいですか? ---- 00 01 000 00 00 968 OK MEMO 00 03 006 00 02 974 xxx処理終了 動作の種類はShowで呼び出したときは「SHOW」、メッセージボックスの結果には「----」、WriteLineで呼び出したときはデフォルトでは「MEMO」が表示されます。 特に重要なポイントではWriteLineの第二引数を指定することで、別の文字を出力できます。 使用例) DebugTimer.WriteLine("ここ大事!","ERR!") 出力ウインドウへの出力) ※罫線が出るわけではなく、タブ区切りです。 ERR! 00 01 000 00 00 000 ここ大事! コードは長そうに見えますが、MessageBoxのShowのバリエーションをひたすらラップしているだけです(^-^; Option Strict On Imports System.Windows.Forms Public Class DebugTimer Private Shared _start As Date Private Shared _before As Date Private Shared _timer As New DebugTimer Private Shared _result As DialogResult Private Sub New() _start = Now _before = _start End Sub Public ReadOnly Property StartTime() As Date Get Return _start End Get End Property Public Shared Sub WriteLine(ByVal message As String) Debug.WriteLine("MEMO" vbTab _ Format(Date.Parse("2000/1/1").Add(Now().Subtract(_start)), "mm ss fff") vbTab _ Format(Date.Parse("2000/1/1").Add(Now().Subtract(_before)), "mm ss fff") vbTab _ message) _before = Now End Sub Public Shared Sub WriteLine(ByVal message As String, ByVal messagetype As String) Debug.WriteLine(messagetype vbTab _ Format(Date.Parse("2000/1/1").Add(Now().Subtract(_start)), "mm ss fff") vbTab _ Format(Date.Parse("2000/1/1").Add(Now().Subtract(_before)), "mm ss fff") vbTab _ message) _before = Now End Sub #Region "Show-ウィンドウ指定なし" Public Shared Function Show(ByVal text As String) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(text) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal text As String, _ ByVal caption As String) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(text, caption) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(text, caption, buttons) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons, _ ByVal icon As MessageBoxIcon) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(text, caption, buttons, icon) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons, _ ByVal icon As MessageBoxIcon, _ ByVal defaultButton As MessageBoxDefaultButton) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(text, caption, buttons, icon, defaultButton) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons, _ ByVal icon As MessageBoxIcon, _ ByVal defaultButton As MessageBoxDefaultButton, _ ByVal options As MessageBoxOptions) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(text, caption, buttons, icon, defaultButton, options) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function #End Region #Region "Show-ウインドウ指定あり" ■ Public Shared Function Show(ByVal owner As IWin32Window, _ ByVal text As String) As DialogResult WriteLine(Text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(owner, Text) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal owner As IWin32Window, _ ByVal text As String, _ ByVal caption As String) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(owner, text, caption) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal owner As IWin32Window, _ ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons) As DialogResult WriteLine(text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(owner, text, caption, buttons) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal owner As IWin32Window, _ ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons, _ ByVal icon As MessageBoxIcon) As DialogResult WriteLine(Text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(owner, Text, caption, buttons, icon) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal owner As IWin32Window, _ ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons, _ ByVal icon As MessageBoxIcon, _ ByVal defaultButton As MessageBoxDefaultButton) As DialogResult WriteLine(Text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(owner, Text, caption, buttons, icon, defaultButton) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function Public Shared Function Show(ByVal owner As IWin32Window, _ ByVal text As String, _ ByVal caption As String, _ ByVal buttons As MessageBoxButtons, _ ByVal icon As MessageBoxIcon, _ ByVal defaultButton As MessageBoxDefaultButton, _ ByVal options As MessageBoxOptions) As DialogResult WriteLine(Text, "SHOW") _result = MessageBox.Show(owner, Text, caption, buttons, icon, defaultButton, options) WriteLine(_result.ToString, "----") Return _result End Function #End Region End Class comment このページの記述で聞きたいこととか間違ってることとかありましたらコメントを。 名前 コメント すべてのコメントを見る
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1 2 3 元ネタ 『パネルクイズ アタック25』 ※AAありの為閲覧PC推奨 2011/05/17 http //hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1305639150/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る 児玉さん亡くなってからアタック見てないな。 今、誰が司会なんだろうか・・ りっちゃん外さないな。 -- (名無しさん) 2016-02-14 22 18 31 何べん見ても面白いな、これは。 お気に入りです。 -- (名無しさん) 2014-05-26 01 39 16 視界でなく司会でした。 失礼しました。 -- (名無しさん) 2014-02-10 02 21 21 アタック25は出題の内容や難しさではなく、陣地の取り合いによる頭脳戦を見るものだったな。 それに故児玉氏の軽快な視界が加わったからこそ、面白かったんだが… このSSは、最後のわしが育てたに尽きる! -- (名無しさん) 2014-02-10 02 20 45 あずにゃん1人でキレるなよww -- (名無しさん) 2014-02-09 13 17 39 「今、何問目?」ってタイムショックかよw ってか律パネル取るの下手で萌えたわw 最初の21番はルール上無理だとしても、地味に10番も酷いw -- (名無しさん) 2012-03-12 17 32 38 今のアナウンサーだと面白くないよな。 ただのクイズ番組だ。 いっそのこと博多華丸大吉にでもやらせたほうがおもしろい。 -- (名無しさん) 2012-03-12 15 13 57 >>>梓「あれ?アタック25がただのクイズ大会だと思ってたんですか? これは知と知の戦いです。正解数だけを競うチャチなゲームじゃないんですよ。 いかに最良のタイミングで正解し、最小正解数で勝つか。これが醍醐味なんです」 梓、お前絶対に毎週日曜日の昼は『アタック25』を見てただろwww -- (名無しさん) 2012-03-12 14 17 55 児玉さん、貴方の事は決して忘れません。どうか、安らかにお休みください。私はいつまでも貴方のファンです。 -- (ゴジラ) 2011-05-30 17 54 56 逆に唯以外が児玉さんだと意外 司会は唯と律がしてたし妥当 しかしアタック25は打ち切りだろうか? -- (名無しさん) 2011-05-25 09 32 06
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前ページ次ページ割れぬなら…… 月下斬舞 敵は7万、こちらは1人。 それを戦争だと言い張れる者がいるだろうか。 ルイズは死ぬつもりだった。 味方を逃がすために、1人でも多く生き延びさせるために、ルイズは7万の敵にありったけの魔法を浴びせて死ぬつもりだった。 ……しかし、ルイズはそれを果たせなかった。 幾重にも幾重にも連なる敵兵達を掻き分け、突き抜け、白馬に乗った一人の武人が飛び込んできたのだ! 「チョウウンッ!?」 ……趙雲子龍、ルイズが呼び出した虚無の使い魔。 ルイズは趙雲に撤退を命じていた。 しかしこの男は命を破り、ルイズを救いに敵中を突破してきたのだ。 「遅くなりました」 敵兵が茫然としている中で、趙雲はゆっくりとルイズの前に進み、鋭い殺気と共に敵を睨みつける。 「ルイズ様。 この趙雲の後ろは、いかなる敵も手を出せぬ処」 返り血で真紅に染まった槍を振り上げ、さらに敵を威嚇する。 ルイズには、趙雲の意図がすぐにわかった。 自分が敵を食い止めている間に逃げろという事だ。 ああ……いつだって私は護られてばかりだ。 いつだってチョウウンは私を護り続けてくれた。 どんなに辛く当っても、どんなに窮地に立たされても。 チョウウンを殺しちゃいけない……絶対に!! 「チョウウンッ!!」 武人は答えない、全身全霊の力を前に……ルイズが居ない方向に向けている。 「私の命は護られて生き存えるものじゃないわ! チョウウン、撤退なさい!」 武人は動かない。 微動たりしない。 ルイズは敵の乗っていた馬を奪い、一足先に撤退を始める。 それを見た敵兵達は、逃がすものかと駆けだした。 まだまだ童と決めつけておりましたが…… 「御意!」 趙雲が敵に背を見せた。 同時に振るった槍は、一度に7人の男を葬った。 「チョウウン! 雌雄を決するのはまだまだ先よ!」 「仰る通り、だが敵はあなたが推し量るほどに甘くはございません」 趙雲の言葉に呼応したかのように、無数の敵が退路に殺到していた。 「よろしいですか。 目を閉じ、身を深く沈め、力と呼吸を馬と合わせることに専心なさいませ」 趙雲が2頭分の手綱を握る。 そして一気に体を深く深く沈める。 趙雲の体は馬の胴体よりも低くなり、手綱が引きちぎれんばかりに引っ張られる。 疾走する2頭の馬は、ありえない角度で曲がった。 退路を塞いでいた者達が驚愕するも、曲がった先にも敵兵が押し寄せている。 同胞の仇を相手に沈着苛烈なこの用兵。 これがミョズニトニルンというものか! しかし…… 凄まじい勢いで詰められる包囲。 殺到する無数の兵士。 趙雲が2頭の馬に乗った。 跨っているのではなく、乗っている。 「曲乗りに惑わされるな! 挟みあげい!」 敵の指揮官らしき男……ミョズニトニルンが叫ぶ。 さらに勢いを増す敵兵。 趙雲が跳ぶ。 落馬をした訳ではない、逃げるのを諦めた訳でもない・ 鞍からのびる綱一本を頼りに、全身を馬から投げ出したのだ。 しかし、主君の命をあずかっているこの地と 我が身命の置き場となったこの天の狭間は……趙雲の武がまさに勇躍する処ぞ!! ……窓から日の光が差し込み、小鳥が木の上でさえずっていた。 肌に触れる感触は、少しばかり湿った布団。 心なしかかび臭い。 そして相変わらず自分を包む石畳、鉄格子。 ルイズは慌てて飛び起きる。 「え? 牢獄? なんで!?」 もう一度周りを良く見てみる……何度見ても牢獄にしか見えない。 「ま、まさか……戦闘中にここまでテレポートしてしまったの!?」 ルイズは愕然とした……自分のあまりにもアホらしい考えに。 もし本当にテレポートしたとしても、趙雲と合流するまでに負った傷が一瞬で消えるなんて不自然だ。 それによく思い出してみると、ルイズが召喚したのは趙雲ではなく、曹操の筈だ。 第一、テレポーテーションなんて非現実的すぎる。 つまり…… 「……夢?」 ルイズは疲れていた。 とにかく、使い魔召喚の儀式からレコン・キスタと正面衝突するまでの、全部を夢で見たのだ。 何度も襲いかかる辛い出来事に、チョウウンに護られながら、私自身もボロボロになって戦った。 「何度やめようか、逃げようかと思ったことか…… だけど、その度にチョウウンは傷つき、血反吐を吐きながら私に仕えてくれた。 しかもウェールズ殿下の事が好きだとばかり思っていた姫様が、実はチョウウンが好きだと打ち明けてきて、 チョウウンは3日間苦しみぬいたあげくに…… 妻なくとも武士の勤めは行えます。拙者は武士として名分の立たぬことのほうを恐れますと。 何も言わずにただうつむいていた姫様と、たった1人で月を眺めていたチョウウン…… 抱きしめてあげたかった。 小指と小指を絡ませて、腕の中へ引き寄せてあげたかった。 こんな駄目な主は放っておいて、チョウウンはチョウウンとして生きてほしかった。 せめて誰かの役に立って死のうと、敵軍の足止めに志願したら、そんな処にまでチョウウンは助けに来て…… それが、それが……それが全部夢ぇっ!!? 現実ではあんなへっぽこ謀反疑惑が使い魔で、あんなにカッコ良くて綺麗で強い使い魔が夢? ええい!! 文字通り夢を見せやがってコンチクショウッ!!!」 怒りにまかせて空のボトルを蹴り飛ばす。 ボトルは壁に激突して砕けた。 「ソウソウの馬鹿……こんな時くらい、助けにきなさいよ……」 「ぷっ」 人の声がした。 おおよそ24時間一度も聞けなかった人の声がした。 振り返ると、鉄格子の外に人が居た。 キュルケとワルドとコルベールと曹操。 「いつから居たの?」 「『テレポートしてしまったの?』の辺りから」 皆を代表してキュルケが答えた。 ルイズは死んだように硬直した。 キュルケがニコニコと……訂正、ニヤニヤしている。 ワルドは必死に笑いをこらえている。 コルベールは誰とも視線を合わせないようにしている。 曹操の表情はややわかりにくいが、彼も笑いをこらえている。 その状態のまま何秒かが過ぎる。 しかし、その危うい均衡はすぐに崩れ去ってしまった。 「もう……無理……」 その言葉を最後に、キュルケが爆発した、決壊した、吹いた。 わかりやすい言い方をするのなら、笑い出したという事だ。 ほぼ同時にワルドも曹操も止めていた息を盛大に噴き出した。 コルベールはオロオロしている。 ……ルイズがキレた。 しかし、今の彼女には杖が無い。 鉄格子から1メイルも離れれば、もうルイズの手は届かない。 「チョウウンの100分の1でも良いから私に優しくしなさいよおおおぉぉぉぉーーー!!!」 その悲痛な叫びは、3人分の笑い声によってかき消された。 その頃……降臨祭の日にガリア大使としてトリステインに来訪してきた男が、グラン・トロワにてジョゼフ一世と謁見していた。 いや、謁見と言うには少しばかり語弊が生じるかもしれない。 まず、その部屋には2人の他に人間は存在しない事。 2人は机を挟んで交互に盤面上の駒を動かし……はやい話、チェスをしているのである。 「殿。ラドクリアン湖の増水の件、私も参りましょう」 男が黒い駒を動かし、ポーンを殺す。 「何故だ?」 ジョゼフが純白のナイトを自陣近くまで後退させる。 「先日、トリステインにてガンダールヴを見て参りました」 漆黒のポーンがクイーンへと昇進した。 「続けろ」 白のキングとルークの位置が入れ替わる。 「かの国に放った密偵からの報告によりますと、ガンダールヴは例の小娘に執心の様子だとか」 黒のビショップがナイトを殺す。 「ほう……しばらく目を離した間に、ずいぶんと育ったものだな」 白のルークが先のビショップを殺す。 「生かしておけば、後々ガンダールヴを釣り上げる餌となりましょう」 ルークが抜けた穴に、黒のクイーンが切り込む。 「あえて行動を共にするのは、餌と魚から針を隠すためか」 白のキングが退く。 「この賈言羽にお任せください」 黒のナイトが退路を断ち、白のキングが囲まれた。 どう動いても、4手後にキングは殺される事だろう。 「……よかろう、好きにするが良い、我が使い魔よ」 「……では、我らがご主君の厄介払いを祝して」 「乾杯」 ワルドの音頭に合わせ、皆が杯を合わせる。 先日の上奏の後、曹操は『シュヴァリエ』の称号を与えられ、ゲルマニアとの国境近くに小さいものの領地を与えられた。 ……昇進の名を借りた厄介払いである。 リッシュモンは死罪、彼の息がかかった者達もなんらかの処分を受けた。 処分を免れた他の宮廷貴族達が、曹操に糾弾されるのを恐れて、中央から遠ざけようとしたのだ。 曹操はこれを承諾。 明日にでも与えられた領地に向かう予定である。 その日、王都トリスタニアにある酒場にて、曹操の出世……もとい、厄介払いを祝う宴会が催された。 参加メンバーは曹操、ルイズ、キュルケ、タバサ、ワルド、コルベール、副官、そしてアニエス。 では、そんな彼等の心温まる宴会風景を見てみよう。 曹操とタバサの場合。 とてつもなく苦いサラダの栄養学について、延々と語りあっていました。 以上。 ワルド、コルベール、アニエスの場合。 「本当になんと言ってお詫びをすれば良いのやら……」 アニエスは酒を飲み、ひたすら暗くなっていた。 曲がりなりにもダングルテールの同胞達の無念を晴らしてくれた曹操は大恩人であり、 知らなかったとはいえ、その大恩人を射殺しようとした自分は鬼畜にも劣るらしい。 さっきから、そんな話題が何度も何度も何度も何度も繰り返されていた。 ちなみに、曹操はその件について全く気にしていない。 アニエスが恩返しを申し出ても「好きにするといい」としか答えない。 降臨祭の日から数日、アニエスは一度も恩返しらしい事をしていないため、自責の念が捨て去れないのだ。 もっとも、一度や二度の功績で清算しきれるほど、アニエスの感謝感激の念は薄くはないのだが。 「はっはっはっはっは、はははははははははは!」 逆にワルドは極めて明るい。 ここまで楽しい思いをするのは、彼の人生で初めての事かもしれない。 「いやぁ~、それにしても我らがご主君の啖呵は実に見事! リッシュモンの慌てふためく顔は実に痛快! トリステインは大激震! まさに天下の謀反人の所業だぁ!」 そんな爆弾発言を、大笑いをしながら言ってのける。 「何をいわれます! ソウソウ殿は国を憂う気骨の士。まさに真の大忠臣!」 アニエスが発言の撤回を求め、ワルドに食って掛かる。 「いやいや、アニエス君は若いし、ご主君と出会ってから日も浅い。 ご主君の本質は謀反人、奸雄と言い換えても良い」 「いいえ! ソウソウ殿は憂国の士。これからのトリステインに無くてはならない国家の柱石となりましょう」 「はっはっはっは、乱世の奸雄だ!」 「治世の能臣です!」 「まあまあ、まあまあ……」 殴り合いになる前に、コルベールが仲裁する。 この男、さっきから一杯も飲めていない。 ルイズ、キュルケ、副官の場合。 「乱世の奸雄!」 「治世の能臣!」 幾度となく勃発する曹操論を、ぼんやりとルイズは眺めていた。 ルイズを牢獄に閉じ込めたのはワルドで、それを指示したのは曹操だった。 曰く「念のために」だそうだ。 ルイズは曹操から信用されていなかった。 そう考えても怒りは湧かず、むしろ悲しかった。 悪いのは私だ……と、ルイズは思う。 考えてみたら、私はソウソウに何もしていない。 むしろ、顔を合わせる度に叱るか、怒るか、止めようとしていた。 ソウソウを遠ざけていたのは、私の行動だった。 だったら…… 「なぁ~に暗い顔してるのよ、ル・イ・ズ!」 がばぁ、という擬音と共に、キュルケが抱きついてくる。 酒の匂いはしない。 しかたなくルイズは考えを止め、ちょっとした質問をキュルケにしてみた。 「ねぇキュルケ、そういえば貴方はどうしてソウソウを探していたの?」 「え? ああ、報告よ」 「報告?」 「ええ、ここに私とダーリンの愛の結晶が……ぽっ」 そう言うとキュルケは顔を赤らめ、そっとお腹をさすった。 いくらルイズでも、妊婦は攻撃できなかった。 怒りの矛先は、とりあえず副官に向かった。 ……合掌。 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、寿退学。 翌年、第一子『曹昴』誕生。 前ページ次ページ割れぬなら……
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この作品は性的表現が含まれています。 過激な性的描写が苦手な方には不快となる内容なのでご注意ください 「ホンットここってエッチな奴ばっかりね!」 殺し合いの舞台となった浮遊大陸内にあるエロトラップダンジョンのうちの一つの中で、マエストラーレ級2番艦であるグレカーレは奮闘していた。 どうやらここは監獄を模したダンジョンとなっているようで、中には多数の牢屋と目を血走らせた囚人がおり、グレカーレ目掛けて一斉に襲い掛かってくる。 グレカーレは運悪く囚人が多数いる区画に飛ばされてしまい、こうして多くの囚人を単身相手しているのだ。 手元に艤装があったことが不幸中の幸いだった。これがなければ今頃グレカーレは囚人たちの慰み物にされていただろう。 「このぉっ!」 グレカーレは連装砲を囚人に向けて放つ。その衝撃と威力で射線上にいた囚人は吹き飛ばされるも、尚も数が減る気配はない。四方八方を、グレカーレの小麦色の肌を見て鼻息を荒くする囚人たちが取り囲んでいた。 「んにゃあっ!?」 不意に、グレカーレの背後からセーラー服のスカートを鷲掴みにされる。振り返ると、すぐそこにまで迫っていた囚人がグレカーレの服を脱がそうとしていた。 「っ、近寄るなロリコン!」 グレカーレは生理的な嫌悪感を催しながら囚人の股間を蹴り上げ、スカートから手が離れた隙に囚人の包囲が薄い方へと駆け、包囲網を突破しようとする。 「あっ!?」 しかし、突破しきる前に囚人に腕を掴まれてしまう。しまった、と思う間もなく、もう片方の腕に両脚も囚人に掴まれ、四肢を拘束されてしまう。 「っ……」 ぐぐ……と力を籠めても、囚人の身体能力は人間のそれと比べると遥かに強く、いくら艦娘といえどビクともしない。 動けなくなったグレカーレの肌――髪から頬、剥き出しの脇に縞パンツ越しのお尻までを、囚人の手が容赦なく撫でる。 「触るな……ヘンタイッ!」 誘うわけでもなく、本気のトーンで叫ぶグレカーレ。 グレカーレの所属する鎮守府の提督に対しては自分からスカートを捲って視線を誘うこともあったが、自分から誘うのと無理矢理やられるのとでは話が全く違う。 性欲が人の形を取ったような存在に囲まれて好き放題されるというのは、いくらグレカーレといえど恐怖すら感じるものだった。 「いい加減に……しろぉっ!」 このままでは状況は悪くなる一方だ。 グレカーレは囚人たちの包囲から脱出するべく、温存していた爆雷を地面に落とした。 次の瞬間、耳を引き裂くような爆発音と共にグレカーレごと囚人たちを吹き飛ばした。 本来、爆雷は海中に落として水中に潜む潜水艦を撃沈するためにあるものだが、それを手榴弾の如く使ったのだ。 無論、その真上にいたグレカーレも無事では済まない。だからこそ、この攻撃はあまり使いたくなかったのだ。 「いっつつつ……」 とはいえ、グレカーレはボロボロになった制服と火傷を負いつつも、五体満足のまま囚人の包囲網を脱出することに成功した。マエストラーレ級は対潜戦闘が得意な方だし、悪運が強い自覚もある。 そのままダンジョン内を駆け、未だ爆風の煙に巻かれている囚人たちから見つからないよう通路の角に身を隠す。 「――ほんっと、悪趣味ね……」 囚人たちが追って来ないことを確認し、ホッとして呟いた。 § ――まさか、あんな狂った催しが行われていて、それにあたしが参加させられるなんて。 エッチなトラップがある会場で為される殺し合い。いくら普段は小悪魔的な言動で提督を誘惑していたグレカーレもこれには困惑した。 そして、直後に見せつけられた凄惨な「デスアクメ」。殺されたのは、グレカーレをもっと過激にしたような雰囲気の小麦肌の少女。その光景はグレカーレにとって、普段から大人を揶揄うお前のようなメスガキはいずれこうなるのだ、と告げられているような気がして、不快というレベルではなかった。 「あたしはあんなダイレクトなこと言わないから!……まあ、あんな目にあっちゃったのはかわいそうだけどさ」 そう言いながら、グレカーレは爆雷によるダメージが完治した自分の肌を見つめる。 「へー、すごいじゃん。なんの薬かは知らないけど、良いもの引けちゃったね」 彼女の傍らには、薬の入っていた器が置かれていた。これは元々グレカーレのデイバックに入っていた支給品の一つだ。 「えーと……これ、なんて読むんだろ。日本語のむずかしー漢字はまだよくわかんないなー」 付属の説明書の名前欄には、「■■の薬」と大きく書いてあった。一体それが何の薬かは詳しく読んでいないので分からないが、殺し合いの再序盤から手傷を負うのはまずいと判断し、とにかく傷を癒すことを最優先に器の中にある薬らしきものをすべて服用した。すると、爆雷で受けた傷がみるみる内に消えていったのだ。 「これでまだ戦えそうね。あのヒョロ人間の思い通りになるものヤだし、帰る方法見つけないとね!」 グレカーレがそう言って、薬の器をデイバックに収めて立ち上がった、その瞬間のことだった。 通路の曲がり角から囚人の一人が顔を出し、グレカーレを捕捉したのだ。 「やっば……!」 囚人は狂ったように叫びながらグレカーレに性欲をぶつけようとする。 「あーもうっ、しつこい!そういうの嫌われるよっ!」 咄嗟に囚人から距離を取り、反対の方向へと逃げようとするグレカーレ。 しかし、彼女は知らなかった。彼女の進む通路の先には、彼女を『終わらせる』エロトラップが仕込まれていたことを。 「へ……?」 グレカーレが床を踏むと同時に魔法陣のような円形の模様がダンジョンの床に浮かび上がった。 その模様は光を増していき、グレカーレの視界を白で覆う。 「ちょ、なにこれ――」 グレカーレに避ける暇も与えずに、その光はグレカーレを呑み込んだ。 (何が起こって……?) 直に、光が止む。エロトラップに巻き込まれたかと思ったが、グレカーレは無事だった。 エッチなことをされるというわけでもなく、恥ずかしいところを責められている感覚もない。 が、グレカーレが無事を確認するために身体を見下ろした瞬間、目を見開いた。 「むああああああああっ!?」 なんとグレカーレは、艤装から衣服、下着まで剥ぎ取られ、一糸纏わぬ姿にされていた。これまで身に着けていたものはすべて塵と化し、全裸のグレカーレの足元にデイバックが落ちているだけなっていた。 「むうっ、んむう、むぐううううっ!」 (何これっ!?何なのよコレえええええっ!!) しかも、両手は鋼鉄の手枷により背中で後ろ手に束ねられ、口にはボールギャグを嵌められていて、恥ずかしいところを隠せないばかりか話すこともできなくなっており、くぐもった声しか出せなくなっていた。 「むううっ!んぐむぅっ!」 外見相応の幼さを持つ胸と股間を隠そうと手枷をガチャガチャと鳴らして外そうとしているが、鋼鉄でできているそれはビクともしない。 一瞬のうちに、何もかもを奪われて裸にされた挙句、両手を口を封じられてしまった。 グレカーレをこのような状態に陥れたエロトラップの名は、「強制装着トラップ」。 衣服を含め、元々装備していたモノを消滅させて特定のモノだけを装備させるという、モノによっては瞬時に参加者を無力化できる危険なトラップだ。 これによってグレカーレに装着されたのは、よりにもよって鍵穴の無い鋼鉄の手枷とボールギャグ。 解錠が不可能のため、拘束を解くには物理的に破壊するしかないという悪質な代物だ。 お尻をふりふりと振って抵抗しながら、グレカーレは最悪の状況になったことに気が付いた。 (ヤバイ……これ、すっごくヤバイ!) 嫌な汗が剥き出しの肌の上を伝う。 エロトラップの跋扈する殺し合いに、裸で拘束されて放り出されることが何を意味するかは想像に難くない。海を取り戻すために戦う艦娘であっても、裸で拘束されれば一人のオンナであることに変わりはない。その行く先は、抵抗も許されずに慰み物にされて嬲られる末路だ。 「むあ……!」 そしてグレカーレはハッとする。 これまで自分が置かれていた状況を思い出したのだ。 裸のまま後ろ手に拘束された彼女の目の前には、あの囚人が佇んでいた。 性欲旺盛な大男と丸腰で拘束された少女。絶望的な力の差がそこにはあった。 思わず、後ずさりしてしまう。 しかし、囚人はそれにも構うことなく、グレカーレに手を伸ばして来た。 「っ!」 グレカーレは、咄嗟にまだ動く足で囚人を蹴った。 「っ、っ、ふっ!」 何度も、何度も。追い詰められた鼠のように、げし、げしと囚人をハイキックで蹴りつける。たとえそれが急所である股間を自分を襲い来る相手に晒す行為だとしても、目の前の脅威をどうにかしないと、命に係わると感じていた。 幼気な拘束された全裸の少女が、五体満足の大男相手にキックだけで立ち向かっているという光景は、どこか滑稽で微笑ましくも、無様で異様だった。 しかし、そんな抵抗もすぐに終わりを告げる。 ――ドゴォッ! 「ふぎいいっ!?」 そんな打撃音と少女の悲鳴が聞こえると同時に、グレカーレは悶絶しながら倒れる。なんと囚人は、ハイキックをしたことで曝け出されたグレカーレの股間を力いっぱい蹴ったのだ。 所謂金的攻撃。だがたとえ女でも、痛いものは痛い。 倒れ伏すグレカーレは、少しでも恥骨の痛みを和らげるために、足を折りたたんだまま縮こまっていた。 「ひっ――」 だがそれで囚人が満足するはずもなく、グレカーレの金髪を掴んで強引に起き上がらせる。そのまま彼女を黙らせるために、拳を振り上げた。 ――ガチャ! 咄嗟に顔を防御しようとしたグレカーレだが、彼女の両手首に嵌まった手枷がそれを許さない。守ることすら許されず、グレカーレはモロに顔を殴られてしまった。 「ぐべえっ!」 もう一度床に叩き付けられるグレカーレ。 (痛い痛い痛い痛い痛い――) 涙も鼻水も垂らしながら、この状況をどうにかしようと考えを巡らすが、後ろ手に拘束されてはデイバックに手を突っ込むのも一苦労で、目の前にいる囚人に対処する策がまったくと言っていい程浮かんでこない。 (死んじゃう……このままじゃ……殺される……!) グレカーレは恐怖で息を荒くしながら、囚人を見上げる。その血走った目を見て、死ぬより酷い目に遭うかもしれないとすら感じてしまう。 そんなグレカーレに残された選択肢は――逃走。幸い、じっとしていたことで恥骨の痛みは引いた――早すぎる気もするが――。グレカーレはよろよろと立ち上がり、両手を後ろに組まされたまま、腰をへこへこと揺らしながら無様に敗走する。 「あっ!?」 しかし、NPCである囚人にそれをわざわざ見逃すほどの慈悲はプログラムされていない。 艤装も失った上に後ろ手に拘束された身体ではとにかく走りづらく、逃げ足は格段に落ちていた。グレカーレはすぐに追いつかれ、真正面に向き合わされる。 「ひゃら……ひゃめへ――」 ――ドゴォッ! 「がふっ……」 囚人は力いっぱいの拳をグレカーレの腹にめり込ませる。 両手を後ろ手に組んでいることで防御もできないグレカーレは、地肌にそれをモロに受け、後方に大きく吹き飛ばされる。 「ぎ……は……」 ボールギャグの間から吐息を漏らし、カエルのように股を開きながら仰向けに寝転がるグレカーレ。 今度こそ一貫の終わりか――と思われたが、ここに来て彼女の悪運の強さが発揮された。 再び彼女のいる床に、魔法陣の模様が浮かび上がり、そこから放たれる光がグレカーレを包み込んだ。 ――そして光が止んだ頃には、グレカーレの姿はそこにはなかった。 § ――転移トラップ。 所謂テレポートを参加者に強要するもので、会場内の無作為の場所へと飛ばされるトラップ。参加者の状況によっては脅威になり得るものだが、グレカーレにとっては間一髪の助け舟になった。 尤も、それがグレカーレにとって幸せになるものかは不明だが。 転移された先で、グレカーレは小麦色の肌から恥ずかしいところまで何もかもを晒したまま、とぼとぼと歩く。 (何とかしなきゃ何とかしなきゃ何とかしなきゃ……!) たとえ難を逃れたとしても、グレカーレが衣服を剥ぎ取られ、両手を拘束され、口を封じられていることに変わりはない。しかも、デイパックは元の監獄風のダンジョンに置き去りにしてしまった。これで正真正銘の丸腰に拘束具をつけられたまま、殺し合いの会場に放り出されたことになる。 普段の彼女からは想像もつかないほどに思いつめた表情で、グレカーレは夜風の寒さに身震いしながら必死に考える。 (何とかしなきゃ何とかしなきゃ何とかしなきゃ……でもどうやって……どうしたら……!) このままでは攻撃手段がキックだけに限られ、碌な抵抗ができない。仮に他の参加者に助けてもらうとしても、ボールギャグで口が塞がれているため、事情を話すのにも手間取ってしまうだろう。そもそも、これから会う殺し合いの参加者が自分を助けてくれるとも限らない。NPCに出会うかもしれない。 (姉さん……リベ……シロッコ……提督……!) グレカーレは、鎮守府にいた姉妹艦と提督の顔を思い浮かべながらも、その足を止めない。 (こんなところで諦めないんだから……絶対こんなエロトラップなんかに負けたりしないんだからぁっ!) こんな状況に陥っても絶望せずに自ら動けるのは、腐っても艦娘といったところか。 絶対に生きて帰還してやる――そう心に誓いながら、グレカーレは、裸で拘束されたまま、浮遊大陸を彷徨い歩くのだった。 § ――だが、グレカーレにとってはあの時囚人に負けてボロ雑巾のように捨てられて死んでおいた方が幸せだったのかもしれない。 監獄風のエロトラップダンジョンでグレカーレが服用した薬――あれは「蓬莱の薬」。飲んだ者は不死者と化し、永遠の苦しみを課す呪いの薬。 つまるところ、多少の制限があるとはいえグレカーレは不死ともいえる回復力を身に着けているのだ。 しかし、今のグレカーレの状態はどうだ。 衣服を剥ぎ取られ、すべての支給品を失い、両手と口を拘束されて使えない――まさに、性欲旺盛な者に対して「襲ってくれ」と言わんばかりの無力な状態。 抵抗も許されず、簡単に死ぬことも許されず、逃れられない苦しみを受けるしかない――それが現在のグレカーレなのだ。 彼女を待ち受ける運命とは、如何に――。 【グレカーレ@艦隊これくしょん】 [状態]:蓬莱人、全裸、後ろ手拘束状態、口枷状態、股間・頬・腹部に打撲痕(急速回復中) [装備]:鋼鉄の手枷、ボールギャグ [道具]:なし [思考・状況] 基本方針:殺し合いから帰還する 1:どうすればいいの……!? 2:エロトラップなんかに絶対負けない! [備考] ※蓬莱の薬について、首輪起動or爆発による死亡以外の不死の程度については後の書き手にお任せします。 ※グレカーレに装着された鋼鉄の手枷とボールギャグには鍵穴がなく、解錠不可能です。拘束を解く場合は物理的な破壊に限られます。 ※グレカーレのデイパック(蓬莱の薬(使用済み)+不明支給品入り)は監獄風のエロトラップダンジョンに落ちています。 『支給品紹介』 【グレカーレの艤装@艦隊これくしょん】 艦娘の標準装備。 これを装備して海を駆け、砲撃、魚雷、爆雷などの多彩な攻撃で深海棲艦を撃沈する。 マエストラーレ級の特徴として、爆雷による対潜攻撃が得意な傾向にある。 その他、火力と装甲が他の標準的な駆逐艦と比べて若干高め。 【蓬莱の薬@東方project】 グレカーレに支給。 八意永琳が千年以上前に作った不老不死の薬。 服用すると蓬莱人の特徴を得て不老不死となるが、同時に死にたくても死ねなくなる。 此度の殺し合いでは首輪の爆破、およびデスアクメによっては死亡するよう制限されている。 『エロトラップ紹介』 【監獄風エロトラップダンジョン@オリジナル】 その名の通り、監獄を模した構造のエロトラップダンジョン。 中には檻が多数存在し、大量の囚人たちが参加者を襲おうと徘徊している。 傾向として、対象の装備を変更したり、拘束具を強制装着して無力化するエロトラップが多い。 【強制装着トラップ@オリジナル】 予め設定されている装備を、トラップにかかった者に強制的に装着させるエロトラップ。 その際、対象が元々装備していたものは下着も含め、余程特別なものでない限り塵と化し、消滅する(デイバックは例外)。 結果的に全裸に剥いた上で特定のモノ「だけ」を装備させる悪趣味かつ危険なトラップ。 グレカーレの場合、解錠不可能な手枷とボールギャグを装着されて致命的な状態へと転がり落ちた。 【転移トラップ@オリジナル】 対象を会場内のランダムな場所へとテレポートさせるトラップ。 一見地味だが、NPCが跋扈する場所に飛ばされることもあれば、複数人で行動している時はパーティが分断されるため危険。 一方で、危険な状況から逃がしてくれる側面もある。 『NPC紹介』 【囚人@オリジナル】 浮遊大陸上に設置された監獄を模したエロトラップダンジョンに潜む、性欲旺盛な大男。 女を見つけると見境なく襲い掛かるようプログラムされており、それ以外の知性は持たない。 中にはイレギュラーとして男色傾向の囚人もいるかも……?
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眠れぬ少年(ねむれぬしょうねん) 概要 ヴェスペリアに登場した称号。 登場作品 + 目次 ヴェスペリア 関連リンク関連称号 ヴェスペリア カロルの称号。 取得者 カロル 取得条件 効果 ▲ 関連リンク 関連称号